後遺障害の立証の鉄則~自身でする症状経過メモ(医師まかせにすると後悔します)~1
自分の症状経過を克明にメモしておく。
そのメモを主治医に交付し、カルテに綴じてもらうなど医師との正確な意思疎通を図る。
必要な検査をその都度主治医にしてもらうよう依頼する。
後遺障害とは
後遺障害とは、自賠責保険法上の定義を要約すると下記の条件を全て満たすものを指します。
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自動車事故によって受傷した精神的または肉体的毀損状態(傷害)
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治療の効果がこれ以上は期待出来ない
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将来においても回復の見込めない症状固定の状態である
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受傷とその症状固定状態との間に相当因果関係が認められる
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受傷とその症状固定状態との間で因果関係が医学的に認められる
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精神的または肉体的毀損状態が予め政令で定めた類型に当てはまる
後遺障害認定の現状
裁判所は自賠責保険の認定の追認機関
後遺障害の認定機関としては、自賠責保険の損害保険料率算出機構、労災保険の労働基準監督署、そして損害賠償の認定の裁判所があります。
そして、本来、裁判所は、自賠責保険の後遺障害認定とは別個に、独自の認定をすることができ、かつそうすることがスジであり、裁判所の使命です。自賠責保険が予め後遺障害として用意した類型の傷害だけが後遺障害だと決定されるべき理由はどこにもないからです。
しかしながら、裁判所は医療の専門機関ではありませんから、裁判所が被害者の後遺障害の有無やその程度を認定する資料として、自賠責保険の後遺障害の認定結果が、その有力な資料となることは否定出来ません。
むしろ、現実には、裁判所は自賠責保険の後遺障害認定の追認機関と化しているとの批判が根強くあります。その証拠として、裁判所が判決の中で「原告(被害者)の後遺障害は第○級に該当する」と判示した裁判例が少なくありません。本来であれば「原告(被害者)の労働能力喪失割合は○割と認定するのが相当である」と判示するのがスジです。
このような現実から、裁判所が自賠責保険の後遺障害の認定と大きく異なる後遺障害の認定をすることは、顔面醜状痕や腸骨採取による骨盤変形など一部の例外を除いてありません。
従って、自賠責保険で後遺障害が認定されるのか否か、認定されるとして何級の認定がされるのか、という点が極めて重要になってしまっているのが現状です。
そこで、裁判所が頼りにしている自賠責保険はいかなる方法により後遺障害の認定しているのかが問題になります。
自賠責保険の後遺障害の認定方法
自賠責保険は、書面による形式審査によって後遺障害の有無と等級を認定します。実態調査による実質的な審査はしません。
後遺障害診断書を含む各種診断書や診療報酬明細書、レントゲンやMRI、写真やMRI等といった文書や画像だけで審査します。
そして、特に重視しているのが、神経学的テストによる異常所見や画像上の異常所見、その他の科学的検査データ上の異常所見といった他覚所見です。
他覚所見があれば、実際に痛みはなくとも12級の認定をしますし、他覚所見なければ、就労不能であっても非該当かせいぜい14級の認定しかしません。
実際、自賠責保険のスタッフの後遺障害認定の研修用の教材に以下の記載がみられます。
自賠責保険・後遺障害等級認定の研修用教材(抜粋)
すべての人々に公平な等級認定をするためには、その基準として、医学的所見を重視しなければなりません。したがって、どうしても就労できない、あるいは日常生活に著しい支障をきたす等の訴えがあったとしても、神経系統の障害が医学的に証明されたものでなければ12級以上の認定はできません。反対に、たとえ自覚症状の訴えが軽い場合であっても、CT・MRI等で異常が認められたり、脳波に異常が認められる場合には医学的に証明されたものとして、12級の評価が可能です。
このように他覚所見の有無を中心とした書面審査であって実質的な調査はしませんから、現実には後遺障害があっても、診断書に各種の症状や他覚所見の記載がないものについては、自賠責保険としては「そのような後遺障害はない」と判断せざるを得ません。
今日の臨床の実態
そこで、重要となるのは、主治医が、懇切丁寧に診察し、手間のかかる各種検査も惜しまずに実施し、カルテや診断書にその所見を正確かつ丁寧に記載することになります。
ところが、医師は雑用に追われ極めて多忙です。大規模病院の医師ほどその傾向が強いです。またある程度の技術のいる徒手検査による神経学的所見の取り方に精通し熟練している医師が多いとは言えない現状ですし、手間隙かかります。ですから、レントゲンやCT、MRIといった画像所見に頼りがちとなり、画像上明白な異常所見がなければ、「たいしたことない。そのうち治る」などと言ってそれで済ませてしまい、被害者もそんなもんかなと思ってしまいます。
医師が丁寧な診察や検査をし、それを詳細にカルテに記載するのは現状では著しく困難です。実際、当事務所は、丁寧に記載されたカルテなどほとんどみたことありません。ほとんどのカルテはミミズが這ったような判読困難な走り書きです。必要な検査をした形跡もありません。
このように、画像上の異常所見はおろか、診断書やカルテには検査はもちろんのこと、症状すら記載されていません。症状すら記載されていないものを自賠責保険が後遺障害の認定をするはずもなければ、裁判所が踏み込んだ判断を出来るはずもありません。その結果、真実、後遺障害のある被害者は、泣き寝入りを強いられる結果となります。
このような泣き寝入りの事態は、骨折などのように容易に発見できる障害を除く全ての交通外傷に生じると言っても過言ではないほどですが、画像所見の乏しい高次脳機能障害、脊髄不全損傷、外傷にともなう頸椎捻挫や腰椎捻挫等の各種神経症状、RSDなど、いわゆる『見えにくい障害』の部類に属する交通外傷では特に顕著です。また、靱帯損傷に伴う膝関節の動揺性でも泣き寝入りの事態が起こります。靱帯損傷も見えにくいことが多いからです。
従って、これらの被害者の方は、特に医師任せにしないで、自身で学習し、積極的に治療行為に参加して、かつ医師の往診態度を注意深く観察し、愁訴を詳細にカルテに記載しているか、必要な検査をその都度しているか、を注意深く見守る必要があります。
それがいかに重要で必要な作業なのかをご理解頂くために、さらに「後遺障害の立証の鉄則~自身でする症状経過メモ(医師まかせにすると後悔します)~2」で踏み込んだ説明をします。