自賠責保険の後遺障害等級認定システムの概要
自賠責保険の認定が裁判所に与える影響
自賠責保険の高次脳機能障害に対する後遺障害の認定システムには、後述するように、専門医や交通事故裁判に精通する弁護士等から多くの問題点が指摘されています。そして、現在のところ、その認定上の問題点が早々に改善される徴候はありません。
従って、真実は高次脳機能障害なのに、自賠責保険からそうでないと否定され、途方にくれる被害者やそのご家族の方は、今後も少なくない数で増え続けてゆくものと思われます。
もっとも自賠責保険が高次脳機能障害を否定しても、裁判所が独自の判断で高次脳機能障害を認定することは可能です。裁判所は自賠責保険の後遺障害の認定とは別個に、被害者の後遺障害を認定する権限のある国家機関だからです。
ですから、高次脳機能障害の後遺障害の等級認定については最終的に裁判所の判断に委ねればいいのであって、それほどナーバスにならなくともよいのでは、と考えられるかもしれません。
ところが、裁判所は自賠責保険の後遺障害の認定に追随する傾向が極めて強く、特に高次脳機能障害などいわゆる「みえにくい障害」といわれる部類に属する障害についてはその傾向が顕著に露呈します。
これまで自賠責保険が高次脳機能障害を否定したにもかかわらず、裁判所が高次脳機能障害を肯定した例は2例しかありません。
また、高次脳機能障害の等級認定についても、自賠責保険の等級認定を上回る労働能力の喪失率を認定した裁判例も少数派です。
このように自賠責保険の認定は、裁判所に対する強い影響力があります。よって、何かと問題点が指摘されている自賠責保険の認定システムであっても、否、何かと問題点の多い認定システムだからこそ、適正な後遺障害の認定を得るために準備しておくべきことは多いと言えます。
自賠責保険の認定基準
自賠責保険が高次脳機能障害の認定のファクターとしているのは、以下のとおりです。
-
初診時に頭部外傷の診断があること
-
頭部外傷後に以下のレベルの意識障害があったこと
- a)半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態(JCSが3桁、GCSが8点以下)が少なくとも6時間以上
- b)軽度意識障害(JCSが1~2桁、GCSが13点~14点)が少なくとも1週間以上)
-
経過の診断書または後遺障害診断書に、高次脳機能害、脳挫傷、びまん性軸索損傷、びまん性脳 損傷の記載があること。
-
経過の診断書または後遺障害診断書に、高次脳機能障害を示唆する具体的な症例が記載されていること、またウェクスラー成人知能検査など各種神経心理学的検査が施行されていること。
-
頭部画像上、初診時の脳外傷が明らかで、少なくとも、3カ月以内に脳室拡大・脳萎縮が確認されること。
以上のうち、いずれか一つのファクターでも該当する症例であれば高次脳機能障害が問題となる事案として審査会の専門部会で審査・認定を受ける建前になっています。
しかし、あくまで建前に止まっていて、実際には上記の1、2、5の要件を欠いたケースで高次脳機能障害が認定された例はありません。すなわち、★頭部外傷、★意識障害、★画像所見の3要件が、高次脳機能障害の事実上の絶対要件となって運用されています。
※自賠責保険の運用に問題があり、泣き寝入りを強いられている頭部外傷の被害者がいかに多いか、その問題点をクリアーするために、どのようにしたらよいのかについては、「軽度外傷性脳損傷による高次脳機能障害」で詳説します。
症状固定時期
医学上、一律に受傷後半年ないし1年とする見解や、2年とする見解がありますが、過度の単純化の危険を犯しているものと思われます。
高次脳機能障害は、認知症と異なり、損傷から免れた健常な脳機能を利用をして認知リハビリ等を通じて、徐々にですが改善していくことが確認されており、特に若年層においては比較的顕著な改善傾向を示すことが指摘されています。
実際、高次脳機能障害の認知リハビリに取り組んでいる大規模医療機関においては、リハビリによる実際の改善成績から、高齢者では半年、青年や中年では1年から1年半、若年では2年とされているケースが多いようです。
設定資料
自賠責保険が高次脳機能障害の有無と後遺障害等級を認定する資料として以下のものがあります。
主として高次脳機能障害か否かを認定する資料
診断書、後遺障害診断書、「頭部外傷後の意識障害についての所見」と題する文書、CTやMRI等の画像、ウェクスラー成人知能検査など各種神経心理学的検査があります。PET、SPECT、H-MRSなどの画像所見も資料となり得ますが、それらの画像ではうつ病や統合失調症、老人性アルツハイマーとの鑑別が判然としない場合もあることから、あまり重視されていません。
主として等級を認定する資料
医師作成の「脳外傷による精神症状等についての具体的所見」と題する意見書、被害者と同居する家族などが作成する「日常生活状況報告表」と題する報告書があります。
- 第1級
- 就労不能で常時介護
- 第2級
- 就労不能で随時介護
- 第3級
- 就労不能だが介護は不要
- 第5級
- 単純な反復作業なら就労可能
- 第7級
- 一般就労が可能だが、作業手順が悪い、約束忘れやミスが多い
- 第9級
- 一般就労可能だが、作業効率や作業持続能力に問題を残す