例
70歳の人が交通事故で頭を打ち入院しました。
受傷直後の意識障害の有無が判然としておらず、CTでも脳挫傷の所見がありません。
退院後、物忘れ、注意障害、遂行機能障害、見当識障害、判断力の低下、意欲低下、発動性の低下の症状が顕現しました。
考えられる病態は、脳外傷による高次脳機能障害、アルツハイマー型認知症、うつ病の3つです。
では、どのようにして見分けたらよいのでしょうか。
一覧にしてまとめてみました。この一覧表は、穂高とお付き合いのある複数の医師の教示により穂高自身の判断でまとめ、穂高が初回の相談時に実際に利用して いるものです。内容に間違いがあるかも知れませんが、ご家族の方が、この一覧表を見て、だいたいの見当をつけて頂ければ幸いです。
脳外傷による高次脳機能障害 |
アルツハイマー型認知症 |
うつ等の非器質性精神障害 |
|
脳の器質性損傷 |
有り |
有り |
無し |
原因 |
脳外傷 |
不明 |
不明 |
初期症状の特徴 |
傾眠 過食 |
特別の所見なし |
睡眠障害 |
意欲低下の内実 |
アパシー |
アパシー |
ペシミズム |
脳萎縮・脳室拡大 (MRI所見) |
急速に進行し、3ヶ月~6ヶ月で固定する(但し、所見されない場合が多い)。 |
徐々に進行し固定しない(所見されるのが通常)。 |
所見無し。 |
脳血流 |
いずれも、前頭前野内側面から帯状回にかけて比較的限局した部位で低下。脳血流より糖代謝の低下が目立つ。 |
いずれも、脳全体で低下。糖代謝より脳血流の低下が目立つ。 |
いずれも、脳全体で低下。糖代謝より脳血流の低下が目立つ。 |
脳拡散テンソル画像所見 |
脳梁、帯状回、脳弓での脳神経細胞の抽出が不良となる。 |
脳梁、帯状回、脳弓での脳神経細胞の抽出は比較的良好。 |
脳梁、帯状回、脳弓での脳神経細胞の抽出は比較的良好。 |
SPM解析画像所見 |
脳梁、帯状回、脳弓の限局部分でFA値が低下 |
脳全体でFA値が低下 |
脳全体でFA値が低下 |
予後 |
症状は軽快するが、治り切らない。 |
症状はエンドレスに悪化。治癒しない。 |
軽快し、治癒する。 |
認知リハビリ |
適応あり |
適応なし |
適応なし |
その他 |
片麻痺、味覚、嗅覚障害、求心路遮断痛、部分発作等の脳神経症状がある。 |
脳神経症状なし |
脳神経症状なし |
但し、脳外傷による高次脳機能障害には、うつを合併する場合が少なくない。また、脳外傷による身 体障害が顕著で臥床状態が継続するとアルツハイマー型認知症を合併し、改善しつつあった症状が途中で徐々に増悪する。以上から、実際の鑑別は、一覧表ほど 単純ではない場合が多い。