後遺障害

東洋医学による治療 〜頸部痛、腰痛、その他の神経症状で苦しんでおられる交通事故被害者の方へ〜

第8 穂高からのアドバイス

では、頸部痛、背部痛、腰部痛、上肢・下肢の痺れ、その他の慢性の頑固な神経症状に悩んでおられる交通事故の被害者は、具体的に、どのようにしたらいいのでしょうか。裁判所の見解を批判しているだけでは解決策は見いだせません。穂高なりの解決案のアドバイスを説明致します。

 

1 統合医療を実施している病院で治療を受ける

統合医療を実施している病院で治療を受ける、これが理想です。

 

  1. 医師自身が、直接、又は理学療法士、あん摩・マッサージ・指圧師、鍼師・灸師、柔道整復師、病院によってはアロマセラピーやカイロプラクティックのスタッフを通じて間接的に病院内で東洋医学的な治療をしているのですから、裁判所の「東洋医学の施術に対する医師の同意」の要件が簡単にクリアーされます。
  2. 効き目のない西洋医学による漫然治療を受ける苦痛からも解放されます。
  3. また、怪しげな「自称・東洋医学者」の悪質な施術に騙されることもなければ、治者の技量不足による治療遅延のリスクも軽減します。
  4. さらに、統合医療を実施されている医師は、診療報酬点数の恩恵が受け難い環境の中で医療を実施されていますから、『医は算術』と考えている医師が少ない傾向にある、ことが指摘されているようです。

 

 

但し、これにも以下の弱点があることにご留意下さい。

 

  • なんと言っても統合医療を実施されている医師が極端に少ない点です。ネットで「統合医療 整形外科」の他、地域のキーワードを挿入すれば、何処で、どのような内容の治療をしてくれるのか、容易に検索することが出来ますが、近隣で探し出すのは困難かと思われます。
  • 次に、統合医療は、日本で始まったばかり(人でいえば産声を上げた直後)の段階で、医師自身が他の療法士等の力も借りて、暗中模索の中で実施している点で、あたりはずれがあることは否定出来ないという点です(それでも効き目のない西洋外科的な漫然治療を受けるよりマシでしょうが)
  • そして、最後に、アロマやカイロも実施されている病院では、その治療に保険による恩恵を受けられないことは患者さんでも同じですから、加害者側から治療費の支払いを打ち切られたときは、比較的高額の治療費を自己負担するリスクがあるという点です。

 

2 受傷直後は整形外科を受診し、相当期間経過後に、その通院と平行して、東洋医学的施術を受ける。

受傷直後は整形外科を受診し、相当期間経過後に、その通院と平行して、東洋医学的背術を受ける方法があります。
実際には、このような方法によるほかない被害者の方が圧倒的多数を占めていると思われます。そこで、以下、重点的に、この方法についてのアドバイスをしたいと思います。

 

(1)信頼出来る整形外科医の探索

東洋医学では、法律上、診断することが出来ませんので、事故と交通外傷との因果関係を立証するには、最初に整形外科医の診察を受けることは、避けられません

 

事故直後は、事故現場に近接した救急医療対応の病院に搬送されることが多いでしょうが、継続して通院する病院となると、職場か自宅近くという通院に利便性のある病院が候補にあげられます。
そこで、信頼して通院治療が出来る整形外科医か否かをいかなる基準で判断するかが問題となります。

 

まず、論外は、穂高のホームページの「交通事故被害・泣き寝入りしないための7つの鉄則」の「第4」「3.今日の臨床の実態」において、極端な手抜き診察例として紹介した診察で済ませる医師です。このような医師は、頸椎捻挫や腰部捻挫は、医師の治療は本来不要と考えている医師と思ってほぼ間違いないと思われます。すぐに病院を代えるのが賢明と思われます。
神経症状が出てきたケースにおいて、前記「3.今日の臨床の実態」で紹介した診察手順〔問診 → 視診 (望診)→ 触診 → 徒手検査(打診)→ 補助診断(画像診断・筋電図などの電気診断)→ 患者への説明 〕にできる限り忠実に従った診察(特に神経症 状が出てから入念な徒手検査や腱反射テスト、知覚テストなど神経学的異常所見の有無の確認)をする医師は極めて有力な候補です。
受傷後3日以内に、四肢・手指の痺れや疼痛を覚え、それをうったえているのに、愁訴を聴くだけで、神経学的異常所見の有無を確認しようとしない医師の場合は、病院をかえた方が賢明と思われます。このような医師では、後遺障害の認定で最も重視される後遺障害診断書における神経学的所見の記載がされないため、あるべき後遺障害が自賠責保険から認定されず泣き寝入りの結果となるからです。詳しくは、「交通事故被害・泣き寝入りしないための7つの鉄則」をご参照下さい。

 

(2)2〜3カ月間、整形外科に通院治療して様子をみる

候補が決まったら、その病院を通院してしばらく様子を見ます。
その際、「交通事故被害・泣き寝入りしないための7つの鉄則」でアドバイスした、

 

  • 自分の症状経過を克明にメモし(鉄則4
  • そのメモを主治医に交付し、 カルテに綴じてもらうなど、医師との正確な意思疎通を図ること(鉄則5
  • 必要な検査をその都度主治医にしてもらうよう依頼すること(鉄則6

 

を実践してください。
その理由についても「交通事故被害・泣き寝入りしないための7つの鉄則」を参照下さい。

 

痛みは、時の経過ともに軽減します。頸椎捻挫では通常3カ月、腰椎捻挫では長くとも半年で8割以上の方が治るとの臨床データがあります(治るのは整形外科的治療によるのではなく、人の自然治癒力が主たる原因と言われています。いわゆる『日にち』が最も効き目のある薬と言われています)。
治ればそれで終わりです。加害者と円満解決して下さい。

 

ところが、中には、頸椎捻挫で2カ月経過しても、腰椎捻挫で3カ月経過しても一定のところまでは改善したが、そこから先は中々軽快してくれない、一進一退になりつつある、という状態になることがあります。そのときは慢性の神経症状となる可能性があります。
このような状態になると、これまでの整形外科的治療を継続しているだけでは、治らないか、治る時期が際限なく遅れます。精神的にも滅入ってきて症状を悪化させかねません。

 

(3)信頼できる東洋医学の施術者の探索

そこで、信頼出来る東洋医学等の施術者を探索して下さい。特に、東洋医学の世界では、外科医によるオペ技術以上の職人芸ないし名人芸によるところが多く、施術者の力量によって治療効果が大きく左右されるケースが多いと、東洋医学会内部からの指摘がありますので、この探索作業は軽視出来ません。

 

しかし、この探索作業も、整形外科医の探索と同じで、大変難しい作業です。

 

もともと、政治家、学者、医者、弁護士、判事、建築家、エンジニア、大工、植木職人、学校の先生、プロ野球選手、力士、そ の他ありとあらゆる部分社会において、超一流はほんの一握りで、一流が1割、優秀が1割、普通が上・中・下まとめて6割、二流・三流・論外がまとめて2割 とささやかれています(サラリーマン世界では、会社に絶対に必要な人は2割、辞めてもかまわない人が6割、今すぐに辞めて欲しい人が2割いる。この数字は 概ね変わるところがない、と言われているようです)。

 

ですから、名医を探すことは、確率上至難の技であり、まずヒットしないと考えることのほうが賢明でしょう。

 

しかしながら、そもそも名医を探す必要が必ずしもあるわけではありません。
自分の身体に聴いてみるのが一番だと思われます。すなわち、口コミで、大丈夫そうな施術者に当りをつけ、一度、実際に施術を受けてみて、整形外科での治療後の状態より軽快していると自分の身体が感じたら、それが、貴方にとっての名医だと思われます

 

ちまたで、
スタッフが多いところは避ける(名医は担当しないから。大学病院と同じ。一流ホテルの結婚披露宴の料理は名シェフは直接タッチしないのと同じ)とか、
派手な宣伝・広告をしているところは避ける(名医とされているところは、患者数が多過ぎて捌けないから宣伝を控えている)とか、
ささやかれています。参考にはなるでしょうが、決め手にはならないでしょう。

 

また、鍼より電気鍼の方が、マッサージより指圧の方が、腰痛には腰椎の矯正より骨盤(仙腸関節)矯正の方が、それぞれ治療効果が高いと言われているようです。しかし、これも参考にはなるでしょうが、決め手にはなりません。人それぞれです。人によって合う合わないの問題がありますし、施術者の技量の問題もあります。

要は、『自分の身体に聴いてみる』これが最も重要であり、まさしく、それが、東洋医学の発想です。鍼にしろ指圧にしろ、施術者がツボを外しているか否かは、自分の身体が教えてくれます。心配するには値しないと思われます。

 

(4)その後の整形外科病院との付き合い方
1 主治医に同意書を書いてもらう

整骨院等の目星がついたら、主治医に、施術を受けることを必ず告知し、同意を得るように打診して下さい。「施術が有効と認める」旨の意見書を作成してもらえれば、いうことなしです。
しかし、そのようなケースはほとんどありません。意見書を作成してもらえる医師は、慢性の神経痛には西洋医学的治療より東洋医学的治療の方が有益であるこ とを知り、かつ患者さん思いの誠実な名医です。名医は確率論からしてもほんの一握りです。
たいていの医師は
「整骨院ねえ〜・・う〜ん・・科学的な検証がね〜・・(ブツブツ・・)」という曖昧な返答に終始し、結局、意見書は作成しないケースが圧倒的多数だと思われます。
主治医の大半は、医学生時代も医局のときも、勤務医のときも独立開業してからも、一貫して東洋医学的施術の有効性について学んでいないからです。

 

2 カルテに記載してもらう

医師の同意が得られないか、意見書の作成を拒否されたときは、カルテに、現在の神経症状が『暫時軽減するも一進一退状態になりつつある』あるいは『直進的軽快傾向にはない状態』あるいは『1か月間、症状に著変なし』と記載してもらうよう依頼して下さい。
これまでの治療の方法が必ずしも有益ではなかったことを間接的に証明することが出来るからです。
しかし、これも、医師にとっては、自分の治療法では効果がないことの自白調書になるので、カルテの記載に難色を示すことが多いです。

 

3 自分の症状経過をメモし,それを主治医に交付し,カルテに綴じてもらう

そこで、登場するのが、「交通事故被害・泣き寝入りしないための7つの鉄則」でアドバイスした,自分の症状経過を克明にメモし、そのメモを主治医に交付し、カルテに綴じてもらうことです。

 

4 最後の手段

それさえも拒否されたときは、拒否された経緯ないし理由を克明にメモしておいて下さい。
あなたのお手許には、受傷直後からの症状経過が克明にメモされており、そのメモには、これまでの治療法とその治療によっては『暫時軽減するも一進一退状態 になりつつある』『直進的軽快傾向にはない』『1か月間、症状の著変なし』との記載があります。
そのメモで、当時「1 これまでの治療方法を継続することでは目ぼしい効果が得られず、他に有益な治療方法を施行する必要があったこと、2 他の有益な治 療方法につき主治医から明確な指導が得られなかったことから自助努力する他なかったこと」が証明されます。それで足ります。

 

5 注意事項

最後に注意して頂きたいのは、整形外科の通院は絶対に止めないことです。東洋医学的施術と平行して、理想的には1週間に1回、最長でも2週間に1回、経過観察の意味で通院を継続して下さい。
これまで膠着状態であった症状が改善していれば、その症状改善をカルテや自賠責保険用の診断書を記載してもらうことにより、東洋医学的施術が治療に有効であったことが証明されることになるからです
また、不幸にして症状が改善されなかったのであれば、経過観察した主治医が、症状経過の自然性を踏まえた後遺障害診断書を作成してくれるからです。東洋医学では、法律上、後遺障害診断書が作成できないからです。

 

3 最後に

以上のとおり、統合医療や東洋医学の併用により、頑固な神経症状で悩んでおられる被害者の方が1日でも早く治癒されること、また、不幸にして後遺障害が残ったときは、適正な後遺障害の賠償が得られることを、心よりお祈り致します。

以上

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