第5 統合医療に対する世界の取り組みと日本の立ち遅れ
以上のような統合医療は、先にもふれましたように世界の趨勢となり、第三の医療と呼ばれるようになりました。
これに対し、日本の現状は、『日本代替・相補・伝統医療連合会議(JACT)』の理事長であり東京大学名誉教授である渥美和彦氏によると、その世界の趨勢から完全に取り残され、鎖国状態になっている、と断言されています。
例えば、欧米では、すでにカイロプラクティック、アロマセラピー、ホメオパシーの治療の有用性を認め、国家資格とされてい ます(カイロプラクティックについては、アメリカをはじめとしてカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ノルウェー、スイス、南アフリカ、ユーゴスラ ビア、スウェーデン、イギリス、デンマーク、オランダなどでは、法律によってカイロプラクティックが医療として認められています。日本では完全に民間医療 扱いです)。
また、金沢大学医学部教授の鈴木信幸氏も、要旨として以下のように述べておられます。
欧米に比べて、そもそも、日本は古来から代替医療の中心である東洋医学を永年 にわたり実践してきた。そればかりでなく、漢方薬を保険薬と認めている世界的にみても数少ない国の一つであり、柔道整復や鍼灸については保険適用され、多 くの患者さんが現に利用している。これらの歴史と利用環境と社会制度は、日本が統合医療の研究をするにつき世界的に圧倒的に優位な地位にあったことを意味 する。
これに対し、アメリカなどは、以上のような日本の歴史や制度がまったくなく、鍼が医療器具として認められたのはつい最近のことである。また東洋医学などの代替医療に対する研究が開始されたのも10数年前に過ぎない。統合医療の研究については、日本に比べて圧倒的に不利な立場にあった。
ところが、アメリカでは、代替医療に対し、十分な予算を元に大規模調査・研究がなされ、現在では全米の125の医学校のうち少なくとも75校(60%)で代替医療に関する講義が設けられ、すでに代替医療に対する保険が適用され始めた。また、ハーバード大学のアイセンバーグ教授により、アメリカ国民の42%が代替医療を利用し、かつ代替医療の利用者は教育レベルの高い人ほど利用率が高い、と報告されている。
これに対して、我が国では、厚労省を初め各医療機関は、代替医療の有効性についてまともな研究をしておらず、どんな治療法があるのか、どんな特長があるのか、どんな実績や有効性があるのか、それを誰に聴けば教えてもらえるのか等、肝心なことがわかっていない医師がほとんどである。
このように、本来、統合医療の研究に本来圧倒的に優位な地位にある日本において、その研究が極端に立ち遅れている理由として、
- これまで、代替医療(東洋医学)がわが国の大学病院での医療教育に取り上げて来られなかったこと
- 民間レベルで自助努力しようにも、代替医療が現在の保険制度で利用することが出来ないこと(儲からない)
- サブリメントをコアとする健康食品に対する無規制状態から、企業本位の自由な宣伝活動により正確な情報の伝達が遅れていること
等が指摘されています。
そして、これまで、代替医療が、わが国の大学病院での医療教育に取り上げて来られなかったことの理由としては、山崎豊子原作の『白い巨塔』やその他の著作よろしく、日 本の大学病院がドイツ式の医学教育システムを採用したため、大学病院の医局内で教授の絶対君主制度が徹底され、絶対君主である教授の興味の対象外であり敵 視している東洋医学の研究をすることや、ましてや西洋医学の東洋医学に対する劣後性を実証することになる東洋医学的治療効果の有効性について研究できる環境にはなかったことが指摘されています。