第1 はじめに
交通事故の被害者が、柔道整復、鍼灸、あん摩、マッサージ、指圧などのいわゆる東洋医学に基づく施術を受けた場合、その施術費はいかなる条件の下で賠償の対象となるのでしょうか。
交通外傷の大半は、頸椎捻挫や腰痛捻挫にともなう、頭痛、目眩、吐き気、項部痛、背部痛、腰部痛、手足の痺れ、といった神経(特に自律神経)症状です。
そのような受傷をした被害者は、当初は例外なく整形外科を受診され、しばらく通院されます。ところが、
- 相変わらずの漫然治療で治りが悪い、
- それどころか、大量の投薬でかえって頭痛や吐き気が激しくなったり、胃が痛むなどの副作用が生じた、
- 医師があまり相手にしてくれない、
- 牽引や温熱パッド等の理学療法の時間が短く効き目があるのかないのか判然としない、
- 診療受付時間が短く会社が遅くなったときは行けない、
その他の理由から、途中で最寄りの接骨院や鍼灸院等の東洋医学による施術に切り換える方も多いかと思います。
では,交通事故の被害者が、柔道整復、鍼灸、あん摩、マッサージ、指圧などのいわゆる東洋医学に基づく施術を受けた場合、裁判所は、その施術費が賠償の対象となることを認めているのでしょうか、認めている場合、どのような条件の下で認めているのでしょうか。このような東洋医学による施術費について述べる前に,その前提として,
- 西洋医学と東洋医学の違いについて若干の検討をし(第2)
- それぞれのメリット・デメリットを確認し(第3)
- そのうえで両者の統合医療についての欧米の現状に触れ(第4)
- その欧米の統合医療の実際から、いかに日本の西洋医学と日本の裁判所の認識が立ち遅れているのか(第5)
について述べたいと思います。