後遺障害

精神障害(非器質性精神障害)について

ポイント

1
交通外傷としてPTSDが認定されることはまずない。主治医がPTSDと診断していても、自賠責、労災、裁判所が、PTSDの認定をすることはまずない。後遺障害も容易には認めない。
2
そもそも損害の認定において、PTSDに罹患したか否かは重要ではない。
3
PTSDの認定がされない場合でも、裁判所により、外傷性神経症や不安神経症などで14級〜12級程度の後遺障害の認定をされることがある。
4

損害認定で重要なのは、

 

  1. 本件事故に因って
  2. 被害者がいかなる精神的打撃を被り
  3. どのような精神症状となり
  4. そのために具体的どのような損害が発生したのか、という事実の主張と立証

 

5

適正な後遺障害の認定を受けるには

 

  1. 精神科専門医による精神医学上の治療を継続的に受ける
  2. 交通事故被害・泣き寝入りしないための7つの鉄則』の鉄則4、5、7の遵守
  3. 鉄則4の症状経過メモは、『非器質性精神障害の後遺障害の状態に対する意見書(様式3)』の記載事項に着眼して具体的なエピソードを交えて記載する

 

6
精神科専門医による精神医学上の治療を受けていないときは、およそ精神障害の後遺障害が認定されることはない。
7
PTSDを含む全ての精神症状は、精神科専門医による精神医学上の治療を受けていたときは、半年〜1年、長くとも2年〜3年で完治し、後遺症を残さないのが大半。持続的な人格変化を認める重篤な症状が残るのは極めて稀。
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仮に裁判所によりPTSDや外傷性神経症などで後遺障害が認定されたとしても、素因競合減額されることが少なくない。

 

第1 非器質性精神障害の一般的理解

1 非器質性精神障害とは

非器質性精神障害とは、脳の器質的損傷を伴わない精神障害の ことを言います。器質的損傷とは、脳挫傷とか脳腫瘍とかで脳が物理的におかされている状態をいいます。ですから非器質性精神障害とは、脳が物理的におかさ れないのに精神症状が出ている場合をいいます。もちろん画像上の異常所見は見られません(但し、精神症状が重篤な場合は、ごく稀ですがPETやSPECT 画像で脳血流が低下していることが所見される場合があります)。

 

2 具体的症状

病名としては、神経症(いわゆるノイローゼと呼ばれているもので、これには外傷性神経症、不安神経症、強迫神経 症、恐怖症、心気症、性神経症、神経性無食症、ヒステリー、不定愁訴症候群などに区分されています。)、心身症、躁鬱病、PTSD、精神分裂病、など各種 命名されています。
厚生労働省は、後遺障害の対象となり得る具体的精神症状としては、

 

  1. 抑うつ状態
  2. 不安の状態
  3. 意欲低下の状態
  4. 慢性化した幻覚・妄想性の状態
  5. 記憶または知的能力の障害
  6. その他(衝動性の障害、不定愁訴など)

 

を掲げています。

 

  1. 抑うつ状態とは、
    持続するうつ気分、(悲しい、寂しい、憂うつ、希望がない、絶望的である等)何をするにもおっくうになる、それまで楽しかったことに対して楽しい感情がなくなる、気が進まない状態のことです。
  2. 不安の状態とは、
    全般的不安や恐怖、心気症、強迫など強い不安が続き、強い苦悩を示す状態のことです。
  3. 意欲低下の状態とは、
    全てのことに対して関心が湧かず、自発性が乏しくなる、自ら積極的に行動せず、行動を起こしても長続きしない、口数も少なくなり、日常生活上の身の回りのことにも無精となる状態のことです。
  4. 慢性化した幻覚・妄想性の状態とは、
    自分に対する噂や悪口あるいは命令が聞こえる等実際には存在しないものを知覚体験すること、自分が他人から害を加えられている、食べ物に毒が入っている、自分は特別な能力を持っている等、内容が間違っており、確信が異常に強くて修正不可能であり、その人個人だけに限定された意味付けなどの幻覚、妄想を持続的に示す状態です。
  5. 記憶又は知的能力の障害とは、
    ここでの記憶障害とは、解離性健忘と言って、自分が誰であり、どんな生活史を持っているかをすっかり忘れてしまう。生活史の中の一定の時期や出来事のことを思い出せない状態です。
    また、ここでの知的能力の障害とは、解離性(心因性)障害と言って、日常身辺生活は普通にしているのに改めて質問すると自分の名前を答えられない、1 + 1 = 3 のように的外れな回答をするような状態をいいます。
  6. その他(衝動性の障害、不定愁訴など)
    上記の1〜5に分類出来ない症状で、多動(落ち着きのなさ)、衝動行動、徘徊、身体的な自覚症状や不定愁訴の状態をいいます。

 

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