間違いだらけの高次脳機能障害 第6回 Q&A
神経心理学的テストの有用性については、医療従事者の間でも、テスト結果は参考になるとか、あまり参考にならないとか、意見がわかれているようです。どうしてこのように意見が分かれているのですか? その事情について教えて下さい。 |
テストの有用性を比較的支持する見解を積極説、懐疑的な見解を消極説として、以下説明します。 |
1 共通認識
消極説はもちろん、積極説も、神経心理学的テストには以下の限界があることを認めています。
- 認知機能を測定するテストはあるが、人格情動障害を測定するものはない。
- 認知機能を測定するテストも、標準化(テストの実施方法や採点方法について厳密に設定)されているテストが少ない。
- 標準化されたテストでさえ、検査者によって検査の仕方や評価方法に差異が生じている。
- 差異が生じていることに目を瞑るとしても、現状の全てのテストは、実生活の問題行動を敏感に反映しておらず、知能テストに問題がないのに職場でのトラブルが絶えない等、テストのスコアと就労能力がリンクしていない。
- 以上から、どのテストも社会適応レベルを把握するに不十分であり、行動観察の方が、認知機能のスクリーニングに優れている。
2 では、何故テストが実施されるのか
このようにみてくると積極説に、もはや勝ち目はないようにも思えます。
しかしながら、現実に、テストは実施されていますし、自賠責保険や労災保険
では、高次脳機能障害の重症度を測定する判断資料のひとつとされています。
それは、以下の事情があるからです。すなわち、全くテストのスコアがないと何が出来て何が出来ないのか、出来ない点についてはリハビリによってどの程度まで改善したのかについて、共通の物差しが全くないことから、リハビリ計画が立てられないからです。
例えば、共通の物差しとなるテストデーターが全くないのに、あの患者さ んは中程度の記憶障害がある評価しても、障害があるとした記憶の性質は近時記憶か短期記憶か、展望記憶か、言語的記憶か非言語的記憶か、なぜ軽度でも重度 でもなく中程度と評価したのか、そもそも記憶に問題があるのではなく、その前提となる注意障害が主因ではないのか、検証のしようがないということになります。
3 まとめ
以上の事情から、やはり神経心理学的テストをすることは必須です。
ただ、テストのスコアを徒に重視しないことが重要です。少なくとも、スコアがいいから就労可能だとの判断は完全に間違っています。そのような判断をするのは一部の医師と裁判所だけあって、まともな医療従事者であれば、そのような判断をしている人は、一人もいません。
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