後遺障害

間違いだらけの高次脳機能障害

間違いだらけの高次脳機能障害 第4回 Q&A

 

資格は判断のポイントになりません。ポイントは、セラピストの個々の力量と障害者本人との相性です。

高次脳機能障害の認知リハビリは、作業療法士、言語聴覚士、臨床心理士、どのセラピストに指導してもらうのが一番いいのでしょうか?
資格は判断のポイントになりません。ポイントは、セラピストの個々の力量と障害者本人との相性です。

 

 

解説

1 誤解

世間的なイメージとしては、

 

  • 箸が上手に持てないとかの巧緻機能障害があるときは、作業療法士
  • 発音が明瞭でないとか難聴気味であるときは、言語聴覚士
  • 神経心理学テストの実施や評価や認知行動療法の実践などは、臨床心理士

 

がそれぞれ専門であって、高次脳機能障害の認知リハビリには臨床心理士が最適なのかな、と思われているかもしれません。

 

しかし誤解です。適切なリハビリを受けるのに、担当セラピストの資格は関係ありません。実際、現状の診療報酬制度上の問題といった政策的事情から、高次脳機能障害の認知リハビリの医療機関で、臨床心理士を常勤させている医療機関は稀です。です から、認知リハビリには、言語聴覚士や作業療法士が担当スタッフとしてあたることが圧倒的に多く、それで問題が生じることはありません。
重要なのは、個々のセラピストの力量と障害者本人との相性です。

 

2 認知リハビリの実際

たしかに、それぞれのセラピストが得意とする分野はあります。運動性失語症(ブローカー失語)、感覚性失語症(ウェルニッケ失語)のリハビリは、言語聴覚士の本来領域ですし、細かい手作業の回復訓練は、作業療法士の本来領域です。
しかしながら、高次脳機能障害者の中に上記のような障害がある方はごく少数です。
また、日常生活動作にも格別の問題がある場合のリハビリは理学療法士の本来領域ですが、そのような障害がある者も少数です。

 

結局、高次脳機能障害者の大半が、注意・記憶・遂行機能といった認知機能に障害がある人です。

 

そのような認知機能の回復であれば、全てのセラピストが対応出来ます臨床心理士だけが出来るということではありません。

実際、神経心理学テストの実施や評価や認知行動療法の実践なども、作業療法士や言語聴覚士などがする場合が多く、それで問題はありません。


このように、認知リハビリの現場で、臨床心理士より、作業療法士や言語聴覚士が担当する場合が多いのは、

 

  1. 作業療法士(平成20年2月現在で登録者数・約3万8000人)、言語聴覚士(平成19年12月現在で登録者数・約1万2500人)の大半が医療機関に従事しているのに対し、臨床心理士(平成19年2月現在で認定数・約1万6700人)は、地方自治体の各種相談所、開業(メンタル・カウンセリング)、児童相談所、家庭裁判所、少年鑑別所、企業内の健康管理室や相談室、公共職業安定所、障害者職業センターなどに分散していて、その全てが医療機関に従事しているわけではないこと
  2. 医療機関に従事している臨床心理士であっても、現状の診療報酬制度上の問題といった政策的事情やその他の事情から、高次脳機能障害の認知リハビリに直接かかわっている人が極端に少ないこと
  3. 結局、認知リハビリ部門における慢性的な臨床心理士の不足から、従来から臨床心理士の本来分野を作業療法士や言語聴覚士がカバーしているとう実情があり、それぞれ経験値を積んでいること
  4. 高次脳機能障害者に対するリハビリは新しい問題であって、リハビリの具体的方法は、各医療機関によって暗中模索の状態であることから、資格による専門性がリハビリ効果の決め手とならないこと

 

などがその背景事情となっています。

 

3 結論

以上の事情から、医療の現場では、認知リハビリはもとより、神経心理学的テストや行動観察も作業療法士や言語聴覚士が実施しており、それで格別の問題は生じていません。

結局は、有効適切な認知リハビリには、資格が決め手となるのではなく、個々のセラピストの力量と障害者との相性です。
認知リハビリは、短くとも半年以上は継続して行われます。お互いの信頼関係なくしてリハビリを継続することは出来ません。信頼の基礎は、資格にあるのではなく、セラピストの力量や相性です。

 

<次回テーマのご案内>

高次脳機能障害の神経心理学的テストとしてどのようなものがありますか。代表的な各テストのそれぞれの特色について教えて下さい。

 

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