後遺障害

間違いだらけの高次脳機能障害

間違いだらけの高次脳機能障害 第3回 Q&A

高次脳機能障害であっても、精神錯乱状態が酷い場合は、認知リハビリを受けさせてもらえないと聞きました。他のリハビリ患者さんに迷惑だからでしょうか? 高次脳機能障害の認知リハビリの適応を教えて下さい。
認知リハビリによる改善効果が得られる見込み(リハビリ適応)がないからです。他のリハビリ患者さんに迷惑だからという理由ではありません。リハビリ適応のある人は、精神的スタミナ、発動性、感情コントロール、集中力が不十分ながらもある程度まで備わっている障害者に限定されます。

 

ポイント

下の図で、注意力・集中力が不十分ながらもある程度まで備わっている人かどうかが、リハビリ適応の有無が決定される分岐点となります。

 

※リハビリルーム内で、周囲の様子が気になって全く落ち着きがないなど、作業に向き合うことが全く出来ないかその程度が著しい人(注意力・集中力が欠落している人)は、リハビリ適応はありません。

 

 

1 神経心理ピラミッド図

上の図は、ニューヨーク大学・医療センター・ラスク研究所内のあらゆる場所に掲示されている神経心理ピラミッド図を改編したものです。

 

高次脳機能障害は主として前頭葉機能障害であることは、今日ではほぼ争いがないようですが、上の図は、神経心理機能(認知機能)を7つに区画し、特に前頭葉機能を中心に模試したものです。

 

2 ピラミッド図の意味

このピラミッド図が示したいのは、

  • 認知機能には階層がある、
  • 下の階層が上の階層のそれぞれの基礎(土台)となっている、
  • 下の階層の機能障害はその上の階層にある全ての認知機能に影響を与える、

ということです。

3 注意障害のある人の場合

 

  • そもそも、周囲の雑音に気になりがちで作業に集中できない人、注意が散漫な人
    注意力・集中力が十分でない人)が、
  • 情報を迅速かつ正確に把握して、的確な反応を示したり
    情報処理能力・コミュニケーション能力)、
  • 物事をよく記憶したり(記憶力
  • 合理的な行動計画を立てて、その計画に沿った行動をしたり(遂行機能)出来なかったときに、自分に否があったことを分析したり(自己分析

 

出来るはずない。
出来なかった原因は「作業中に背後でコトッと音がして気が散った。音がしなければきちんと出来た。自分の能力が低いのが原因ではない。音のせいだ」と不合理な自己分析をする傾向にある(病識欠如)。

 

だから、このように注意力・集中力が不十分な人は、まずは、集中力を高める認知リハビリをしないといけない。

 

土台を固めていないのに、上位の階層にある情報処理能力や記憶力のリハビリをしても効果はない一向に成果があがらず、疲れ果てて倒れるのを待つだけ。かえって症状は悪化する。

 

ということを示しているのです。そのとおりだと思います。

 

4 精神錯乱状態が酷い人の場合

幻聴や幻覚などの症状がある人、感情易変、易怒性の著しい人は、認知リハビリの適応なしとして、精神科の診療領域となることは事実です。

 

そのような人は、ピラミッド図では下から2番目の抑制が欠如した抑制状態に該当します。抑制状態にある障害者は、とにかく興奮していて注意も集中も全く欠落している状態です。ですから、興奮状態が収まり、感情コントロールが不十分ながらもある程度まで出来る状態にならないと、その上位の階層にある認知機能はリハビリによって改善する見込みがないからです。

 

メジャー・トランキライザーなどの強い抗精神剤によって、興奮状態を抑えている障害者もリハビリ適応がありません。強い薬の作用で発動性が低下し無気力状態になっているか、そこまでいかなくとも頭がぼーっとして働かず、やはり、注意力・集中力が著しく欠けている状態になっているからです。

 

このように、精神錯乱状態が酷い人が認知リハビリを受けられないのは、注意力・集中力が著しく欠けているためリハビリ適応がないからです。他の障害者の迷惑になるというのは本質的な理由ではありません。

 

※『他の患者さんに迷惑』というのが理由であれば、隔離した部屋で個別リハビリをすれば足りるし、また、抗精神剤で興奮状態を鎮めてリハビリをすれば足りる ことになります。しかし、そのような方法でリハビリはしません。注意力・集中力が全くないため、リハビリ適応がないからです。

 

5 まとめ

認知リハビリ適応のない人
  • 神経疲労が著しく起きていられない人(精神的・心的エネルギーが欠落)
  • 全く無気力な人(発動性が欠落)、自己抑制が全く効かない人(脱抑制
  • 著しい注意障害があって、作業に集中することが全く出来ない人(注意力・集中力の欠如)

 

認知リハビリ適応のある人
  1. 薬に頼らなくても、そこそこ起きていられて(精神的・心的エネルギー)、
  2. 認知リハビリをしようとする意思が不十分ながらも認められ(発動性)、ある程度まで行動を自主的に抑制することが出来、
  3. 注意力・集中力に障害があっても、ある程度リハビリ作業に取り組むことが出来る人

 

<次回テーマのご案内>

高次脳機能障害の認知リハビリは、作業療法士、言語聴覚士、臨床心理士、どのセラピストに指導してもらうのが一番いいのでしょうか?

 

弁護士からのアドバイス
高次脳機能障害について
脊髄損傷について
遷延性意識障害について
その他後遺障害各種