後遺障害

RSD被害者の方へ

第5 自賠責保険の認定基準定立の根拠と問題点

以上のように、自賠責保険は本人の愁訴の内容ではなく、他覚所見を等級認定の決め手としており、他覚所見の程度によって痛みの程度を判断しています。
この方法は合理的とは言えませんが、それでも、自賠責保険が最低限度の補償を迅速に実施するという制度目的を有していることからみて、無理なからんところがあり、やむを得ない方法と思われます。

 

もともと症状の程度と他覚所見の程度とは、直リンクしているわけではありません。例えば、相当程度のヘルニアがMRIで所見出来るのに全く無症状の 人もいれば、僅かのヘルニアでも体動困難となって寝たきりの人もいます。また、MRIで脳萎縮が相当程度進んでいることが所見できるのに全く認知症の症状 がない人もいれば、脳萎縮の程度は軽度なのに重い認知症となっている人もいます。
このように、他覚所見と症状は必ずしも一致するものではないということは、臨床医学の常識であり、医師なら誰でも知っていることです。また、実際、自賠責 保険の認定方法では、真実は強烈な痛みがあっても他覚所見が全くないからという理由で非該当となり、逆に痛みがほとんどなくとも他覚所見があるというだけ で12級の認定がされることになりますが、これは全くもって不合理です。
ですから、他覚所見の程度から等級(疼痛の程度)を認定するのは、本来的には合理的な方法とは言えないという側面は残ります。

 

しかしながら、他方で、体の奥に「焼け火箸を刺し込まれるような」あるいは「錐をもみ込まれるような」痛みを覚えると言われたところで、その人以外の第三者が、その痛みの内容や程度を推し量ることなんて絶対に出来ません。
「被害者は正直者だから嘘をついているはずがない」だとか、「本来我慢強い人だからあんなに痛がっているのは相当辛いに違いない」等指摘されたところで、 どの程度我慢強いのか、どの程度正直なのか、「相当辛い」の「相当」は、7級レベルなのか12級レベルに止まるのか、それらを正確に判断できるはずがあり ません。
痛みの質や程度は定量化出来ないのです。ですから、こと疼痛の内容や程度を判断する資料としては、他覚所見の内容や程度以外に、他に信頼するに足るべき判断資料はないと言わざるを得ません。
他覚所見から痛みの程度を推し量る自賠責保険の認定方法は、やむを得ないものと考えます。

 

※ 但し、裁判所の場合は、自賠責保険と同様の認定方法で認定することが許されるわけではないと思われます。裁判所は書面による形式的審査をするに止まる 自賠責保険と異なり実質的な審理をする権限と義務があります。そうしますと、他覚所見だけで痛みの程度を正確に判断することは出来ないことが判明している 以上、他の資料も補助的な認定ファクターとして総合的に考慮すべきことになります。そして、そのような補助資料はあります。例えば、これまで、生真面目に 労働し、幼子をかかえ、住宅ローンの支払いも残っている男性が、痛みによる体動困難から3年も職場復帰することが出来ないでいるという場合、その痛みの程 度を推し量ることは十分出来るはずです。

 

もっとも、自賠責保険が、RSDの認定基準として、4主徴とはされていない骨萎縮が認められないときにRSDを否定していることには疑問が残ります。
自賠責保険が、骨萎縮を認定の要件とした理由は

 

  1. 骨萎縮が画像によって簡単かつ明確に判断できるため、等級認定基準として明確であること
  2. RSDに限らず、排用性拘縮等、動かせない・動かさない状態が継続されれば骨萎縮が起こるとされていることから、症状の程度によって認定され得るRSDに絞りをかけようとしている点にある

 

と思われます。
しかしながら、例えば、骨萎縮の程度までには至らなかったが、筋萎縮や左足膝関節の拘縮のレベルには達していたという場合は、それだけで、肉体労働に支障が生じて、就労可能な職種が相当程度制約される場合もあることを考えると、自賠責保険が骨萎縮をRSDの絶対要件とした点については、少なくない疑問が残ります。

 

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