後遺障害

脊髄損傷被害者とそのご家族の方へ

第6 加害者側の主張とそれに対する反論

このように、医療、福祉行政、その他の社会資源が不十分な現状の下では、ご家族は、限界状態にあっても過酷な在宅介護を続けていくほかありません。
受け入れてくれる医療機関が極端に少なく、介護サービスも不十分であることから、重篤な合併症を発症させて死なせたくなければ、すべてを犠牲にしてでも在宅介護を続けていくほかないのです。
介護者には、介護作業による頑固な腰痛に悩んでいる人がいます。
また、お笑い番組を観ているのに突如として涙がこぼれ出ることもあります。 
突然キレて大声で叫んでしまうか、叫びそうになるときもあります。
しかし、そんなときでも自分のための適切な心理カウンセリングを受ける機会はありません。誰に相談したらよいのかすらも分かりません。社会福祉体制の不備から専門の相談システムも相談員もいないからです。
そんなご家族の過酷な介護の状況を知って知らずか、裁判上、加害者側から専門医のよる意見として、以下の意見書が提出されることがあります。
すなわち、
医学的には、・・・1名の介護者で対応できる」
「食事や更衣など」や「排泄」は「1名で対応可能」、
「体位変換、全身清拭、入浴、移動など」も「リフトの導入などにより…効率化することが出来るはず」
であると。

 

しかし、例えば、食事の介護であれば、まず療養者本人が食べやすいように調理された食事を用意し、患者をベッドから起こし、(ときにはさらにリフトを使って車椅子に移動させ、)座位が不安定にならないようにしっかりと体を固定し、患者の様子を注意深く観察しなが ら、そのペースに合わせて少しずつスプーンや箸で食べ物を口まで運んで食べさせるといった介助を、頻繁に起こる痙性麻痺に注意しながら40?50分もかけ て行わなければなりません。
このような具体的な介助内容を考慮した意見なのでしょうか、
1人の人間が、24時間、365日、何十年と、延々と休みなく介護を続けていく、そのことを具体的に正面から見据えた見解なのでしょうか、
介助される側も介助する側も、高度の精神活動を営む生命体です。
ひとりの個人として尊重されるべき人格体です。
このことは、介護を考えるにあたっては、最も基本的で重要な前提とされるべき事柄です。
意見書は、診察室の中だけから、人をフィジカルに捉えた介護を考えているのではないか、との疑問が残ります。

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