第5 在宅介護に要する時間と支援体制の現状
1 在宅介護に要する時間
以上のような、濃密・濃厚な介護は1人で出来るはずなく、親族が複数でも出来ません。介護ヘルパー、訪問看護師、その他福祉センターのリハビリ、訪問入浴、訪問リハビリ等の援助が必要となります。
それでは、実際どの程度の介護時間が必要であり、また在宅介護者に対する十分な援助はなされているのでしょうか。
特定非営利活動法人日本せきずい基金は、平成12年、全国的規模で「在宅高位頚髄損傷者の介護に関する実態調査」を行い、平成14年3月、その事業報告書を発表しました。
同報告書は、詳細な調査結果の分析に基き、在宅高位頚髄損傷者やその家族介護者がQOL(生活の質)を向上し、人間らしい生活を送るために1日に必要な介助時間は、
人工呼吸器利用者で27時間
C4以上の損傷で24時間
であり、必要な介助体制は、
人工呼吸器利用では5.0人
C4以上で4.5人
であると明言しています。
さらに、同基金が平成15年に発表した「在宅高位脊髄損傷者の介護システムに関する調査報告書」によれば、
- タイムスタディ調査の結果、就寝時間、待機時間、隙間時間を含めて実際に必要とされる介護サービス供給時間(職業介護人利用時間)は、
ア 人工呼吸器利用者
家族と同居の場合 11時間
単身の場合 施設対応(在宅介護は不可能)
イ C4以上の損傷
家族と同居の場合 9時間
単身の場合 24時間
※ いずれの場合も外出日には1時間増しとされています。 - そして、「最重度」(まったく上肢を動かせない=四肢完全麻痺)の場合は、1日あたり、
家族と同居の場合 11.3時間
単身の場合 28.3時間
※いずれの場合も週2?3日の外出を想定の介護サービスが必要であると提言されています。
2 支援体制の現状
しかしながら、現実には、
- 介護ニーズの高い「最重度」では、24%が有償ヘルパーを利用しており、介護時間の不足分を有償ヘルパーで補っている。
- 「最重度」であっても、家族が同居している場合には、公的ヘルパーは週に2.8回しか派遣されておらず、利用者のニーズが考慮されていない。
- このように、介護サービスの利用状況は質的にも量的にも低調であり、サービスの供給体制や派遣時間帯は現実のニーズに応えていない。
そのため、同居の家族は過酷な介護を強いられている。
- C4以上損傷者の場合、同居の家族は、1日あたり約8時間の直接介護を行っており、このほかにも夜間就寝中の見守りを行っている。
これではせいぜい日中数時間の外出ができる程度である。 - さらに、人工呼吸器利用者の場合は、同居の家族による1日あたりの直接介護時間は約11時間であり、このほかに就寝中の見守りを行っている。
つまり、家族の主介護者が介護から解放されることはほとんどない。 - このように家族の主介護者が自己の時間を持つことを犠牲にして在宅生活を支えているというのが実情である。
このように、在宅高位頚髄損傷者の家族による介護は、限界状態にあると指摘しています。
3 医療機関の受け入れ態勢の不備
先に指摘しましたように、頸髄(脊髄)損傷者は、さまざまな合併症の危険にさらされており、重篤な合併症が発症した場合には、家族による在宅介護は不可能となり、医療機関による医療介護が必要となります。
ところが、現状では、専門医の不足、看護体制の不備、医療の不採算性などから、脊髄損傷患者を受け入れる病院は限られ、多くの医療機関では最初から受け入れないか、急性期のみの対応しかしてくれないといった問題を抱えています。
先の特定非営利活動法人日本せきずい基金は、年間約5000人発症する脊髄損傷者を治療からリハビリまで一貫して対応できる医療システムが決定的に不足していると断じています。
「二重の被害」と言われている所以です。